HOME コラム「住宅と窓」 第5回 断熱と健康

コラム「住宅と窓」

〜第5回〜
断熱と健康

私たちの中には、寒さを人生における重要なスパイスと捉え、これが健康な生活を営む上で重要な存在である、と考えている人が少なくないようです。冬に住まいを暖かくなるようにすると、体が弱くなる、風邪をひきやすくなると言われることもあります。これは本当なのでしょうか。

逆に、窓を二重にし、壁や天井に断熱材を入れる、いわゆる高断熱住宅に住んだ人の中で、風邪をひきにくくなった、元気になった、という感想も聞きます。どちらが正しいのでしょうか。どちらも正しいのでしょうか?

この点に疑問をもった筆者らのグループは、数年前に在阪の上原裕之氏が主催するNPOの活動の一環として、新築の住宅に転居した経験をもつ数百人の方を対象として、健康度の変化に関するアンケート調査を行い、さらに、その結果をさらに明確にするために場を国土交通省が主管するプロジェクトに移し、対象を2万人に拡大して統計的により確かな調査を行いました。

せき、のどの痛み、手足の冷えなどの日常生活で感じるものと、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症含む)、など全部で15の症状に対して、引っ越す前の住まいで感じていたか、感じていなかったか、転居後の新しい住まいになってから感じているか、感じていないか、を訊くというシンプルな調査です。

それぞれの症状について、前の住まいで感じていた人の中で、新しい住まいで感じなくなった人の割合を改善率と名付けました。この改善率について、おどろくべき結果が出ました。全ての症状について、新しい住まいの断熱性能が高いほど、改善率が有意に高くなるのです。断熱性が高くない住まいでもそこそこの割合の人が出なくなっており、これが自然治癒などの影響を示すものと考えられますが、断熱性に合わせて改善率が確実に増加するのです。

これまで、断熱性を高めることの目的は、暖房消費エネルギーの抑制、いわゆる省エネと、冬の寒さを和らげるという、快適性の向上でした。この調査で初めて明確に示されたのですが、冬の寒さを和らげることは、人を健康にするのです。初めの投げかけに対する答えはこれです。寒さは人を強くしなかったのです。

筆者は高断熱住宅に暮らしており、冬は寒さをほとんど感じない生活をここ数年しています。ごくたまに、無断熱の実家で冬の夜を過ごすと、途端に体調を崩しそうになります。風邪をひきやすい体になってしまったのでしょうか。実は、体に問題はなく、来ている衣服に問題があったことが分かってきました。高断熱の暮らしでは、自然に着衣量が減ります。この癖のまま、極寒の部屋で過ごすので風邪をひいいてしまったのです。しっかり衣服も備えれば、体調を維持できることが分かりました。ただし、衣服での調整にも限界があるようです。肺が吸い込む空気の温度が低いと、感染症にかかりやすくなる、というレポートもあります。健康を維持するための住まいの断熱、とても重要です。