快適性向上のカギは「窓」にある
前回、ZEBにおいては「計算上の数値(BEI)」以上に「居住者の快適性」が重要であるとお話ししました。今回は、なぜ窓ガラスの性能が快適性を左右するのか、具体的な理由を掘り下げます。
建物の不快感はどこから来るか
オフィスや学校で「暑い」「寒い」と感じる不快感。その多くは、実は「窓際(ペリメーターゾーン)」で発生しています。
建築環境工学の分野では、室内の温熱環境に対する不満の多くが、外気の影響を受けやすい開口部周辺に起因することが知られています。
例えば、早稲田大学田辺新一研究室の研究などが指摘されている通り、人が感じる温度(体感温度)は室温(空気温度)だけでなく、周囲の壁や窓の表面温度(放射温度)に強く影響されます。
壁には分厚い断熱材が入っていますが、窓は数ミリから数センチのガラスだけで外と接している「熱の弱点」です。夏場、日射を受けた窓ガラスの表面温度が高くなると、室温を26℃にしていても、放射熱によって体感温度は上がり「暑い」と感じます。
つまり、「窓際の環境を改善することこそが、建物全体の快適性を高める最短ルート」なのです。
窓の断熱向上による5つのメリット
高性能な窓ガラスを導入することには、単なる室温調整以上の多面的なメリットがあります。
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窓際の寒さの軽減(コールドドラフト対策)
冬場、暖房をつけているのに足元がスースーと冷える経験はないでしょうか? これは「コールドドラフト」と呼ばれる現象です。冷やされたガラス表面に触れた空気が重くなって下降し、床面を這うように広がることで発生します。
断熱性能が高い窓やサッシを導入すると、室内側のガラス表面温度が下がりにくくなるため、この不快な気流を抑えることができます。窓際席の寒さが解消されれば、オフィス全体を有効に活用できるようになります。
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日差しの緩和(日射遮蔽)
近年の日本の夏は酷暑です。ここで重要になるのが、Low-E複層ガラスの選び方です。Low-Eガラスには「日射取得型」と「日射遮蔽型」の2種類があります。
オフィスや学校では、内部発熱が大きいため、冷房負荷の低減が最優先です。そのため、準寒冷地より暖かい地域であれば、日差しを熱として取り込むのではなく、遮る「日射遮蔽型」を選択することが極めて重要です。
メーカーによっては標準が「日射取得型」になっていることもあるため、設計時には明示的に「日射遮蔽型」を指定し、熱の侵入を水際で防ぐ必要があります。
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結露の防止と健康維持
結露は、サッシのカビやダニの発生原因となり、アレルギーなどを引き起こす要因です。
また、感染症対策の観点からは「湿度管理」が重要です。インフルエンザウイルスなどは、湿度が40%RH以上になると生存率が大幅に下がる研究報告があります(G.J.Harper 1961など)。
しかし、断熱性能の低い窓では、加湿すると結露リスクが先に立ち、40%RH 程度の湿度を安定して維持しづらいケースがあります。高性能な窓は結露しにくいため、より健全な湿度環境を確保しやすくなります。
- 外が見えることの開放感
ZEB化のために「窓を小さくする」という手法がありますが、閉鎖的な空間は圧迫感を与え、知的生産性を低下させる恐れがあります。断熱・遮熱性能の高いガラスを採用すれば、大きな開口部を維持したままZEB化が可能です。外の景色が見え、自然光が入る明るいオフィスは、働く人のウェルビーイングに寄与します。
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防音効果による集中力の向上
断熱性能を向上させた複層ガラスや真空ガラスは、優れた防音性能も期待できます。外部の騒音を低減し、静かな空間を作ることは、業務や学習への集中力を高める上で非常に効果的です。
※窓の防音効果を上げるにはガラス構成や防音サッシ等とあわせて検討する必要があります。
まとめ
このように、窓ガラスへの投資は、光熱費削減だけでなく、「健康」「生産性」「満足度」への投資でもあります。
次回は、新築だけでなく、既存建築物を使いながらZEB化する「居ながら改修」における、ガラスの役割についてお話しします。
【注釈】
- ペリメーターゾーン: 建物の外周部(窓際)のことで、外気の影響を受けやすいエリア。
- 日射遮蔽型: 太陽の日射熱を反射して室内への侵入を抑えるタイプのLow-Eガラス。