NEC玉川ルネッサンスシティ
21世紀に光を(2001年)
0121世紀を見据えて
このプロジェクトでは、世界をリードする先端技術をもつ代表的な日本企業のソフト開発部門の“頭脳センター”にふさわしい建物整備と、地球環境に対する負荷を最小限に抑える活動を開始したNECの“環境コンセプト”達成が、建築家に求められた。
敷地の約2/3を公開空地とした“緑と水の景観”の創出、地下躯体の最小限化、日射遮蔽と全室自然採光を考慮した配棟計画とコア配置、外壁高断熱化・連続調光システム・コージェネレーション・外気冷房など、さまざまなシステムを採用し、一般のビルに比べて、建物の全生涯を通した運用エネルギーを40%、ライフサイクルCO2を35%、削減する期待ができるものとなった。
また、当プロジェクトでは、クライアントの先見的なリーダーシップのもとに、プロジェクトに関わった約1万人に工事のみならず、各自のライフスタイルにまでエコ意識を芽ばえさせた。さらに、NECは昨年3月に、当玉川ルネッサンスシティの具体的なコンセプトが自社製品にまで逆輸入されたとも言える形で、企業活動全体を通して排出されるCO2を量的に把握する手法を発表した。
浜田明彦(日建設計)
東プラザの夜景
エントランス側から見るキャノピー:夕景
photos by Iwata Hideaki
02環境配慮への強い意思と技術 ーNEC玉川のエネルギー思想
環境マネジメントサイクルの具体的な展開
NEC玉川ルネッサンスシティは、「環境マネジメントサイクル」(図1)構想に基づき、ライフサイクル全体を通した本格的なエコロジ-ビルを目指し、「建物の長寿命化」「省エネルギ-」「エコマテリアルの採用」を3本の柱とする計画を推進し、ライフサイクルCO2 排出量35%以上削減を図った。(図2)
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図1:環境マネジメントサイクル
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図2:ライフサイクルCO2の削減
(日本建築学会「建築のLCA指針」案による試算)
建物の長寿命化
本計画では長寿命化対策として、Y型ダンパーを採用して建築物そのものの耐久性を向上させるとともに、建物機能の陳腐化を防ぐため、部分更新や将来の拡張に充分適用できる計画としている。
省エネルギ-計画
45%の節水を可能とした水資源の有効活用(図4)、建物の高断熱化と基準階事務室窓へのエアフロ-ウインドの採用、外気冷房システム、フリ-ク-リングシステム、基準階事務室に採用された連続調光システムと昼光・人感センサ-などの様々な環境配慮手法により、削減される1次エネルギ-消費量を約40%削減する効果が見込まれる。(図3)
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図3:1次エネルギー削減効果
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図4:水資源の有効利用
エコマテリアル
コスト、デザイン、知恵・工夫という3つの観点から検討を十分行った上で、リサイクル可能な材料や廃材再利用材料などのエコマテリアルの採用を決定していった。
クライアントのリーダーシップ
こうした当プロジェクトでの環境配慮の達成を可能としたのは、クライアントの先見的なリーダーシップであった。
03透明なアトリウムを実現する構造とファサードエンジニアリング
長さ86m、幅7m(階段部分は幅9.4m)の世界初の鉄骨・ガラス混構造キャノピーは、ガラス屋根をガラス梁が支え、どこまでも続く透明な空間をつくり、光によって来訪者をエントランスに導く象徴的な空間である。
夜間には足下の照明によるライトアップが列柱を演出する。
プレーナー構法によるガラスによる構造は、実大実験を実施して決定されている。 屋根面ガラスには、ストライプ状のタピストリー加工が施され、繊細さとシャープさを演出するとともに、汚れが目立たない仕掛けともなっている。また、清掃時の安全帯用フック掛けをつけるなどの配慮もある。
浜田明彦(日建設計)
キャノピー詳細図(PDF 63KB/1ページ)
キャノピーを正面から見る
キャノピー端部詳細
photos by Iwata Hideaki
04自然と人工の間で ーエントランス
来客者が最初に訪れる2層吹き抜けのセンターエントランスは、東西方向で視線を遮るものがほとんどなく遠目には透過する空間である。 これにより、透明キャノピーから連続的に建物に導入する役割を果たしていることに加え、この上部に位置する食堂が浮いているような印象を与えている。
こうした透明感の高い空間を実現しているのは、プレーナー(DPG)構法に加え、天井から吊り下げられたガラスカーテンウォールを支持するダブルのリブガラスが中段(床面より2,670mmの高さ)で止まっていて足元をすっきりさせていることによる。 また、自動ドアも、この透明感あるエントランスに合わせて上部ガイド部分を半透明のガラスとアクリル板で囲ってデザインの洗練度を高めている。
エントランス詳細(PDF 64KB/1ページ)
エントランス内観
エントランス西側外観
photos by Iwata Hideaki
05光を浴びる ー食堂
透明で開放的なこの空間で快適に過ごせるよう、複層ガラスと高日射遮蔽性能の電動ロールブラインドが採用されている。
透明感を極限まで高めるため、ガラスは縦横共にリブガラスで支えられ、そのジョイント部分(床、屋上梁、柱・梁接合部の3ヶ所)は、ステンレス金物による3ヒンジの一次静定構造として、水平荷重時(地震時)にガラス部材に応力が発生しない工夫もされている。
食堂窓部詳細図(PDF 90KB/1ページ)
食堂内観
食堂内観:ロールブラインドをおろす
photos by Iwata Hideaki
食堂カーテンウォール上部を見る
06景色が透過する ーPFG構法
基準階の執務室が日常の省エネルギー性を優先して壁・開口部のバランスが取られているのに比して、食堂や会議スペース等の低層階の共用スペースを極力開放的な空間とするために採用されたのが、PFG(Piece Frame Glazing)構法である。
目線の高さの部分にサッシがないため、視線が遮られず外部への眺望が確保されている。躯体との取合い部をすっきりと見せるためのディテールも工夫されている。なお、熱負荷対策として、食堂同様に電動ロールブラインドが取付られている。
PFG構法使用部詳細図(PDF 90KB/1ページ)
PFG構法外観
PFG構法カーテンウォール内部より景色を見る
photos by Iwata Hideaki
PFG構法内観天井取り合い部
PFG構法内観床取り合い部
07光れ、壁 ーエントランスロビー光壁
エントランスから入った人の正面に位置する柔らかな光を放つ光壁にはNECのロゴが浮かぶように印象的にデザインされている。
サッシレスの簡潔な意匠を実現するためにプレーナー構法で取り付けられた乳白色セラミックスプリント強化ガラス(飛散防止フィルム貼り)は、金具に取付られたガスダンパーにより開閉が可能で、照明器具の電球交換を容易に行うことができる。開閉は、ガラス下端部に専用器具(吸盤器)を使って行い、最小限の金具しか用いない簡潔なディテールを実現している。
高さは3mあるが内部に構造体のY型ダンパーがあるので37cmしかない奥行きの中でガラス面を均一に光らせるため、傾けた反射板を濃いグレーから上部にいくほど白く塗装して光源に近い部分が明るくなりすぎないようにしたり、内部天井に鏡面仕上げのSUSプレートを設置するなどし、加えて照明器具も光に方向性を持たせて光壁面を効率よく照らすために特注の反射板とアルミルーバーを設けるなど、光を拡散させる工夫が随所に凝らされている。
光壁詳細図(PDF 46KB/1ページ)
エントランスロビーの光壁を見る
photos by Iwata Hideaki
08透けよ、壁 ープロフィリットガラス壁
1階のVIPエントランスを完全に閉じた空間にせず、隣のロビーへの連続性を感じさせるため、見透かせないが互いの存在を感じ取れる素材としてプロフィリットが採用された。
また、ロビー天井に設けられたウォールウォッシャーによって、プロフィリットの光を柔らかく通す素材感を活用した光の演出が図られている。
VIPエントランスのプロフィリット壁
photos by Iwata Hideaki
091枚のガラスを ーシースルーEvシャフト
移動空間においてもリフレッシュできるよう、外部への眺望確保のために、他に例を見ない高層建築でのMJG構法が採用された。このシャフトを昇降するエレベータが、特に夜間にライトアップされてNECの躍動感を表現している。
1枚の巨大なガラスのように見せるべく、躯体部分との取合いことにガラスエッジ部分の納まりが工夫されている。
エレベータシャフト詳細図(PDF 36KB/1ページ)
エレベータシャフトを足元より見る
エレベータシャフト外観
photos by Iwata Hideaki
10軽やかに、あくまで軽やかに ー階段
1階のVIPエントランスホール、2階のエントランスロビー、3階の応接会議フロアーを結ぶ階段は、鉄骨ピン構造でつくられ、簡潔な意匠のピン構造のディテールや、ささらと切り離され丸パイプでつながれた踏み板などによって、吹抜けに透明で軽く浮かんだ印象を与える階段となっている。
12ミリ強化ガラス(ストライプ模様のフィルム貼り)自立手摺による構成も、その印象を強めている。
階段手摺り詳細図(PDF 15KB/1ページ)
2階打合せスペースの階段全景
階段手摺り
photos by Iwata Hideaki
11透けて、昇る ー防火硝子スクリーン
食堂階(4、5階)と、厚生施設(6階)をつなぐ階段の壁を、開放的でアクセスしやすくするために、特定防火設備(旧・甲種防火戸)としてワイヤレス防火ガラスのパイロクリアを用い、透明な防火ガラススクリーンを実現している。
これによって、常用エレベータホールから階段を移動する人々の動きが感じられ、明るい階段室と相まって階段利用を促進し、省エネ意識向上にもつながっている。
階段室を透明に間仕切る透明防火スクリーン
photos by Iwata Hideaki
12平面・立面図
- ■キャノピー
- ■エントランス
- ■食堂開口部
- ■PFG構法
- ■光壁
- ■シースルーEVシャフト
- ■防火ガラススクリーン
- ■階段
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西側立面図
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2階平面図
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4階平面図
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基準階平面図
13建築データ
Architecture Data
| 名称 | NEC玉川ルネッサンスシティー I |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県川崎市中原区下沼部1753 |
| 面積 |
敷地面積:30,003.27㎡、建築面積:7,717.17㎡ 延床面積:79,554.17㎡ |
| 構造・階数 | S造・一部SRC造、地下2階、地上26階、塔屋2階 |
| 寸法 | 最高高:111,250mm、主なスパン:9,000mm×9,000mm |
| 設計 | 日建設計、大林組 |
| 監理 | 日建設計・日本電気コンストラクション |
| 施工 | 建築:大林・鹿島共同企業体 |
| 施工期間 | 1992年10月~1997年5月 |
| 掲載誌 |
日経アーキテクチュア1999年9月6日号・2000年9月18日号 新建築2000年10月号、ディテール146号 |
Glass Data
キャノピー
| 天板ガラス | |
|---|---|
| 品種 | プレーナー用ラミペーン(DPG構法用強化合わせガラス) |
| 構成 | 強化ガラス12ミリ+強化ガラス8ミリ |
| 表面加工 | タペストリー加工(オーダー柄) |
| 構法 | プレーナーフィッティングシステム |
| 使用面積 | 60㎡ |
エントランスファサード
| 面ガラス | |
|---|---|
| 品種 | プレーナー用タフライト(DPG構法用強化ガラス15ミリ) |
| 表面加工 | 飛散防止フィルム貼付 |
| 構法 | プレーナーフィッティングシステム |
| 使用面積 | 470㎡ |
| リブガラス | |
| 品種 | フィン用タフライト(フィン構法用強化ガラス19ミリ) |
| 表面加工 | 飛散防止フィルム貼付 |
| 使用面積 | 230㎡ |
| ドアガイドカバーガラス | |
| 品種 | プレーナー用タフライト(DPG構法用強化ガラス10ミリ,12ミリ) |
| 表面加工 | 両面タペストリー加工 |
| 使用面積 | 4㎡ |
食堂
| 面ガラス | |
|---|---|
| 品種 | プレーナー用ペアマルチ(DPG構法用複層ガラス) |
| 構成 | 強化ガラス15ミリ+中空層12ミリ+強化ガラス8ミリ |
| 構法 | プレーナーフィッティングシステム |
| 使用面積 | 610㎡ |
| 天板ガラス | |
| 品種 | ペアマルチSG(SSG構法用複層ガラス) |
| 構成 |
強化ガラス10ミリ+中空層12ミリ+網入板ガラス6.8ミリ 強化合わせガラス24ミリ+中空層12ミリ+網入板ガラス6.8ミリ |
| 構法 | SSG構法 |
| 使用面積 | 230㎡ |
| ドアガイドカバーガラス | |
| 品種 | プレーナー用タフライト(DPG構法用強化ガラス10ミリ,12ミリ) |
| 表面加工 | 両面タペストリー加工 |
| 使用面積 | 4㎡ |
3~6階共用部分
| 面ガラス | |
|---|---|
| 品種 | フロート板ガラス 19ミリ,22ミリ(PFG構法用ガラスユニット) |
| 構法 | PFG構法 |
| 使用面積 | 160㎡(19ミリ),730㎡(22ミリ)・総計890㎡ |
光壁
| 面ガラス | |
|---|---|
| 品種 | プレーナー用タフライト(DPG構法用強化ガラス12ミリ) |
| 表面加工 |
特注タペストリー加工,セラミック印刷(特注色), 飛散防止フィルム貼付 |
| 構法 | プレーナーフィッティングシステム |
| 使用面積 | 100㎡(印刷品),80㎡(透明)・総計180㎡ |
| リブガラス | |
| 品種 | フィン用タフライト(フィン構法用強化ガラス19ミリ) |
| 表面加工 | 飛散防止フィルム貼付 |
| 使用面積 | 20㎡ |
1階VIPエントランス
| 面ガラス | |
|---|---|
| 品種 | プロフィリット(溝型ガラス) |
| 構法 | シングル構成 |
| 使用面積 | 30㎡ |
3~6階階段室
| 面ガラス | |
|---|---|
| 品種 | パイロクリア(ワイヤレス防火ガラス) |
| 仕様 | 特定防火設備(旧・甲種防火戸)[ドアメーカー・鐵矢工業(株)] |
| 使用面積 | 66.4㎡ |
ガラス構法・技術担当
| 日本板硝子株式会社 建築硝子部 | 鵜澤康久、山本 修、久田隆司 |
| 日本板硝子株式会社 東京支店 建築営業グループ | 森 隆哉 |
| 日本板硝子ディー・アンド・ジー・システム株式会社 | 石垣修亨、溝口安彦 |
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