ガラス新構法のご紹介

汐留住友ビル
「空・間」が高機能建築を生み出した
ゆりかもめ側から見た全景
photo by Shinozawa Hiroshi
ハイパー・スペック・ビル
汐留住友ビルは、東京において最大級の競争力のある事業ビルを目指し、国内の大手企業・外資系テナントが望む高度なスペック全て(広さ、眺望の確保、免震構造による安全性など)を満足することを試みた。
利用客の動線が交差する1階に汐留最大のアトリウムを設けた。フロア構成は、交通機関の状況等を考慮し、低層部に主に夜間利用されるホテル、高層部にオフィスをという逆転の発想を行い、高機能なオフィス空間を確保した。
フロート板ガラスを徹底したアトリウムのガラスカーテンウォール
オフィス・ホテルの中間部に免震機構を配することにより、大スパンで最大限の眺望が確保されたオフィス空間ができた。
アトリウムでは、全てフロート板ガラスだけで構成した、長脚柱と一体となった透明性の高いカーテンウォールとした。
(浜田明彦:日建設計/概要文責は編集部)
汐留住友ビルの計画
エントランス・アトリウムの全景
photo by Shinozawa Hiroshi
大空間のエントランス
メインアクセス経路には、高さ40mの明るく開放的なアトリウムエントランスを設けている。
その外壁ガラスカーテンウォールは、透明性を徹底するため、自重を内外の吊りワイヤーで支持し、外部の竪リブガラスと内部の水平ガラス梁で風荷重を受ける構造としている。
ここでは、自然換気システムの導入や、日射コントロールのためのロールアップスクリーン、居住域のみを効率よく空調しつつ床暖房やカーテンウォール基部の温水ヒーターなどで補助する設備計画などによって、環境にも配慮している。
エントランス・アトリウムの全景
photo by Shinozawa Hiroshi
眺望を最大限に確保したオフィス窓
奥行25m、幅110m、約3600平米の無柱空間のオフィスでは、東に浜離宮庭園、西に東京タワーを望める側にオフィススペースを配置し、隣接する建物側をコアとした。
オフィスの窓は眺望を重視し、間口約12m・高さ約2.6mの開口とした上で、竪方立にリブガラスを用いて、恐怖感の解消のための手摺を設置しつつ、ビューが通るようにした。
環境負荷対応のため、高性能熱線反射ガラスを用いた上で、エアバリアファンにより窓ガラスとブラインドの間の空気をブラインドボックスに循環させて窓面の輻射熱を抑えると共に、窓台部分の換気スリットで中間期等の自然換気も可能にしている。
(木村雅一・高野勝也:日建設計/概要文責は編集部)
透明なアトリウムを実現する構造と
ファサードエンジニアリング
エントランス・アトリウムの全景
photo by Shinozawa Hiroshi
汐留住友ビルの大アトリウムを貫通し、事務所部分の荷重を支える支柱は、12.8mの間隔でガラスファサードの内側に位置しており、およそ40mのアトリウムの高さの分はまったくこの柱の座屈を補剛する部材が無い状態である。
いくつかのアイデアの中から、設計者は、やや扁平の多角形断面の単柱の案を選択した。柱は座屈に対して効果的な紡錘型の断面形状を採用し、柱の挙動を明確化するために柱脚にメカニカルな2方向ピンを設けることとし、建物全体の地震時刻暦応答解析の応答値を柱のFEMモデル(※)で解析した。
また、このアトリウムは西日をまともに受けるため、その温熱環境の評価、快適性を向上させるための提案、中間期自然換気の可能性の検討、冬季のペリメータ・ゾーン空調の検討などについても協力した。
(彦根 茂:Arup Japan/概要文責は編集部)
エントランス・アトリウムの全景
photo by Shinozawa Hiroshi
汐留アトリウムのコンセプトは主に2つの点において発展した。
まず、ガラスフィンの耐風梁によって水平方向に12.8mスパンとすること。その一方で構造柱から両側に3.2mのカンチレバーアームを張り出し、実際のガラス耐風梁のスパンは6.4mとした。
2つ目は、一点のメタルの「顎」でガラスフィンをくわえ込む「クロコダイル・ノード」によって、外部ガラスフィン、内部のガラス耐風梁、ファサード面ガラスそして鉛直荷重を支持するハンガーケーブルを接合すること。これにより金属部材の点数が最小となり、ファサードの透明性を増すことができた。
(Peter Hartigan:Arup Sydney/概要文責は編集部)
汐留住友ビルの計画
エントランス・アトリウムの全景
photo by Shinozawa Hiroshi
大空間のエントランス
メインアクセス経路には、高さ40mの明るく開放的なアトリウムエントランスを設けている。
その外壁ガラスカーテンウォールは、透明性を徹底するため、自重を内外の吊りワイヤーで支持し、外部の竪リブガラスと内部の水平ガラス梁で風荷重を受ける構造としている。
ここでは、自然換気システムの導入や、日射コントロールのためのロールアップスクリーン、居住域のみを効率よく空調しつつ床暖房やカーテンウォール基部の温水ヒーターなどで補助する設備計画などによって、環境にも配慮している。
エントランス・アトリウムの全景
photo by Shinozawa Hiroshi
眺望を最大限に確保したオフィス窓
奥行25m、幅110m、約3600平米の無柱空間のオフィスでは、東に浜離宮庭園、西に東京タワーを望める側にオフィススペースを配置し、隣接する建物側をコアとした。
オフィスの窓は眺望を重視し、間口約12m・高さ約2.6mの開口とした上で、竪方立にリブガラスを用いて、恐怖感の解消のための手摺を設置しつつ、ビューが通るようにした。
環境負荷対応のため、高性能熱線反射ガラスを用いた上で、エアバリアファンにより窓ガラスとブラインドの間の空気をブラインドボックスに循環させて窓面の輻射熱を抑えると共に、窓台部分の換気スリットで中間期等の自然換気も可能にしている。
(木村雅一・高野勝也:日建設計/概要文責は編集部)
アトリウム柱基部の解析モデル(※)
浮き上がり防止を考えて軸を設けると、その軸部分で応力集中が生じる。しかし、図にあるように軸がなくとも上からかかる軸力(重力)によって浮き上がりには対抗できることがわかり、安全のために軸心とは異なる位置につなぎのピンを設ける程度の案が採用された。
図版提供:Arup Japan
「空間」を空につなげるために
ー巨大で透明なアトリウムを実現する技術
歩行者デッキより見るアトリウムのファサード。「クロコダイル・ノード」とリブガラスがリズムを刻む。
photo by Shinozawa Hiroshi
斬新な構成と、過酷な条件
この建物は、下部に巨大なアトリウムとホテルを持ち、その上に、通風/免震層を挟んで大型オフィス層が乗るという斬新な構成の建物である。
12.8mスパンで立つ長さ40m超の柱で支えられるアトリウムの巨大空間をできうる限り透明感の高いものにすべく、できればガラスだけでファサードを作りたいというのが、設計者の要望であった。
軽快なシステムを求めて
しかし、このアトリウムの外装の中間部にテンション材を取付けると、そこに入ってくる膨大な張力に対応するため、アトリウムを支える柱は外装材の面内方向の曲げ応力を負担することとなり、その意匠性をそこなってしまうことになる。
水平ガラス耐風梁の登場
そこで、構造柱から3.2mのアーム(カンチレバー・アーム)を持ち出し、その間に6.4mの水平なガラスの耐風梁を配する案に収束した。
ただし、柱から持ち出したアームにはガラスの重量を負担させないことで、アームの断面を極力小さくすることにした。また、せっかく耐風梁をガラスだけで構成することになったので、面ガラスの縦の割付もできるだけ大きくとることになった。
アトリウムエントランスのファサード内観。
上に載るオフィス層を支える紡錘型の柱がファサードも支持する。
photo by Shinozawa Hiroshi
ファサード頂部を見上げる。オフィス層との間には免震層が設けられている。
ファサードの自重を吊り下げる鉄骨が見える。
photo by Shinozawa Hiroshi
全てフロート板ガラスで
設計者から、このアトリウムではフロート板ガラスに徹底したデザインにしたいとの提示があり、全てをフロート板ガラス(合わせ)とすることに挑戦した。
フロート板ガラスだけを使用することで以下のことが実現できた。
  1. ゆがみを最小限とした
  2. 強化ガラスでは不可能な長さ6.4mも可能とした
  3. 面ガラスを長くし水平ガラス耐風梁を2階層ごとに出来た
  4. コストを抑えることができた
もちろん、安全確保のための工夫──ガラスと金物の接合部を「挟み込み」「差し込み」「巻き込み」などの方法としたり、地震時に違った挙動をする柱とガラス面に対応すべくピン接合とローラー接合を採用したなど──は様々に行っている。
なお、面ガラスは、外部側に配したリブガラスで2辺支持され、上下辺は突き合わせシールだけの納まりとなっている。
アトリウム・エントランスの全景
photo by Shinozawa Hiroshi
歩行者デッキから見るアトリウムファサード夜景。
photo by Shinozawa Hiroshi
全カーテンウォールをケーブルで吊る
12.8mのスパンの間にあるガラスや金物の、耐風梁:6トン、リブガラス:11トン、面ガラス:15トンという重量を最小のエレメントで支持するには、吊り下げることが最も有効である。
よって、アトリウムの最頂部にガラスの幅と同じ1.6mピッチで配置した吊り元となる鉄骨から、ファサードの内側・外側の2本のステンレス・ケーブルと金物(クロコダイル・ノード)で水平のガラス耐風梁を含む全てのガラスの重量を吊り下げている。
ケーブルは、アトリウムの高さいっぱいの1本物で、金物と取り合う位置に固定した金具に、それぞれの部位の金物が取り付く、位置調整しやすくジョイントがシンプルなメカニズムとした。
(松延晋:日本板硝子ディー・アンド・ジー・システム)(概要文責は編集部)
ファサードのジョイント金具
「クロコダイル・ノード」
photo by Shinozawa Hiroshi
ファサード下端の「クロコダイル・ノード」
photo by Shinozawa Hiroshi
照明で浮かび上がる
「クロコダイル・ノード」と耐風梁
photo by Shinozawa Hiroshi
開かれた機能性を作る
ー多様に活躍するガラス
ガラスシェルターを見上げる
photo by Shinozawa Hiroshi
ラスシェルター
汐留住友ビルと、ゆりかもめ汐留駅との間につながれたブリッジの上にはガラス屋根のシェルターが架けられている。
用いられたガラスは、その上に汚れが目立たないようにセラミックス印刷を施した倍強度ガラスを用いた合わせガラスである。
ガラス張りのエスカレーター
アトリウムで地階と1階、1階と2階を結ぶエスカレーターは、その機械部分を囲う面をガラスで仕上げている。
床から天井まで開口のオフィス部分
オフィスフロア開口部には、リブガラスで支えられた、床から天井までの高さ約2.6mの1枚物の高性能熱線反射ガラスとして、眺望の良さと環境性能を両立させている。
また、交通騒音などに配慮して、低層部分など一部には、防音合わせガラスを採用している。
2階デッキのガラス──プロフィリットガラス
公共空間との関わりを考え、夜間に通行する人々のために、2階デッキに、柔らかく、むらのない光を提供するため、溝型ガラス・プロフィリットがダブル構成で用いられている。
また、防火性能が必要とされるアトリウムに面した客室の窓部には、耐熱強化ガラス・パイロクリアが用いられている。
オフィス開口の窓台と手すり
photo by Shinozawa Hiroshi
アトリウムエントランスとオフィスのファサードを見上げる
photo by Shinozawa Hiroshi
建築データ
Architecture Data
名称 汐留住友ビル
所在地 東京都港区東新橋1-9-2
面積 敷地面積:10,077.19㎡
建築面積:7,233.21㎡ 延床面積:99,913.20㎡
構造 S造(一部コンクリート充填鋼管)・SRC造・RC造・中間層免震構造
階数 地下3階・地上27階・塔屋2階
寸法 最高高:128.1m、軒高:119.9m、主なスパン:22.95m×12.8m
階高 オフィス階:4.4m、4.6m、4.8m、ホテル階:3.2m
総合監修 住友不動産
設計監理 日建設計
総合監修 住友不動産
設計協力 アトリウム構造・外装・環境:Arup Japan
アトリウム・外構照明:ライティング・プランナーズ・アソシエーツ
施工 建築:鹿島建設・竹中工務店・西松建設・三井住友建設共同企業体
Glass Data
アトリウム
面ガラス
フロート板ガラス
・飛散防止フィルム貼り
15ミリ、19ミリ 3,300㎡
水平リブガラス
フロート合わせガラス 38ミリ(19ミリ+19ミリ) 330㎡
垂直リブガラス
フロート合わせガラス 38ミリ(19ミリ+19ミリ) 900㎡
ホテル階ファサード
客室ガラス
高性能熱線反射ガラス
(レフシャイン)TSL30
10~19ミリ 2,300㎡
2階デッキ
プロフィリット
L=2,400、L=2,900
ダブル構成 76㎡
一部間仕切り
耐熱強化ガラス(パイロクリア)
・飛散防止フィルム貼り
8ミリ 350㎡
オフィス階ファサード
面ガラス
高性能熱線反射ガラス
(レフシャイン)TSL30
12~19ミリ 9.700㎡
防音合わせガラス(ソノグラス) 18ミリ
(高性能熱線反射ガラス10ミリ+フロート板ガラス8ミリ)
300㎡
垂直リブガラス
強化合わせガラス 38ミリ(19ミリ+19ミリ)、30ミリ(15ミリ+15ミリ) 1.000㎡
一部間仕切り
耐熱強化ガラス(パイロクリア)
・飛散防止フィルム貼り
8ミリ 350㎡
シェルター
面ガラス
セラミックスプリント
倍強度合わせガラス(ラミペーン)
12ミリ
(セラミックスプリント倍強度ガラス6ミリ+フロート板ガラス6ミリ)
760㎡
ガラス構法・技術担当
橋本貴伸(日本板硝子株式会社・建築硝子部)
城英明・松延晋・渡辺克己(日本板硝子ディー・アンド・ジー・システム株式会社)