泉ガーデンタワー
天に向かって輝くタワー(2004年)
泉ガーデンタワー ─天に向かって輝くタワー (2004年)
目次
01光のタワーを
ハイパー・スペック・ビル
古来より、人々の絶えない“夢”であった光り輝く透明なタワー、21世紀の新しいタワーイメージが我々の“夢”であった。
“ガラス建築”は開放を求める現代の社会を象徴し、正当な市民権を得ようとしているが、一方では外部負荷に弱く、割れやすく、汚れやすいというような過去の評判にさらされている。そのような中で、ようやく完成したのがこのカーテンウォールである。
超高層における自然換気の実現や、外部負荷削減の工夫などの、ミニマムのデザインの中に込められた多くの工夫の結晶がこのタワーの輝きを支えている。
櫻井潔(日建設計)
南側ファサード/photo by Tsukasa Aoki
0221世紀の街づくりを目指して
街のにおいを残して
山側の旧住友会館の庭園をできる限り残して低層の美術館とともに公開し、山側の容積を新駅に隣接した谷側に移転することで、敷地の自然を残しながら賑わいの創造を目論んだ。
また、元の敷地の起伏を残し、地下鉄駅の改札口を最下層レベルに設けて、改札口には自然光が入る安全で魅力的なアプローチが用意された。
さらにタワーは地上から5層分持ち上げ、道路の喧騒を避けた高さにおちついたオフィスロビーを、その下にはレストランやホテルなどを配置して都市的な賑わいを展開した。
アーバンコリドール夜景
photo by Tsukasa Aoki
シャトルエレベーターシステムとフライングアトリウム
地下鉄新駅と7階、24階のエントランスを直接結ぶ75人乗りのシャトルエレベーターを用意し、あたかも100m級のビルが縦積みされたようにして、ローカルエレベーターをミニマムに抑えた。
周辺の喧騒を避けて空中に設けた7階、24階のフライングアトリウムは街に向かって開放される。
アーバンコリドールと低層部分
photo by Tsukasa Aoki
ボイドコア
基準階はコア中央部に外部空間「ボイドコア」を設け、排気ルートとするとともに将来の変更に即応できるスペースを確保した。
このボイドコアの四周にはプランとは無関係に理想的な形で耐震要素を敷設でき、オフィス外周部の柱をミニマムに抑えて、窓周り16mスパンという超高層の眺望の利を生かした平面計画が可能となった。
タワーから見る日没
photo by Tsukasa Aoki
呼吸する光の壁:外装カーテンウォールの計画
眺望確保のため、外装は床から天井上までの開口とし、サッシをミニマムに抑えた外リブガラススティフナーのカーテンウォールとした。
家具等の衝突と恐怖感解消のために設けられた手摺の中には軸流ファンを仕込んで、手前のロールスクリーンと組み合わせて室内空気を床部から天井スリットに排気するエアーフローとして外部負荷を抑えた。ミニマムに抑えた膳板部にはスリットが切ってあって、カーテンウォールスリット部からの自然換気を可能としている。
櫻井潔(日建設計)
03「呼吸する光の壁」の為のカーテンウォール技術の助走
建築は技術の「組合わせ」「組立て」から成立しており、そのポイントは実績を携える人間関係であろう。したがって、この技術・人ネットワークの構築と円滑な運用が建築完成の良否を左右する。
「オールガラス建築」について各関係者の賛同を受けたことと、指導官庁に「階高分一枚ガラス」で可能の了承を得たことで、技術目標である「呼吸する光の壁」が理想に近い形で成立する保証が出来た。
幸運な事に、この現場では、関係業界の先進の技術と、経験がある人・ネットワークにも恵まれた。技術的には、DPG構法類の広範囲な普及、リブガラス工法の耐風・耐震解析の一般化、弾性接着剤の進歩と力学的解析法の確立等、近年急進展した構造的ガラス構法の豊富な実績に助けられた。
横田暉生(横田外装研究室)
基準階窓周り矩計図(PDF 104KB/1ページ)
04概念・技術の再構築
21世紀に残る純粋な「ガラスのタワーを建てたい」との設計者の想いに応え「できるだけガラスだけで構成する」ために、従来の工法をラディカルに再考した。
既成概念の破壊
すべての部位で同じシステムを繰り返しながら、ガラスが空に消えてゆくようにするためには、フェイスガラスとリブガラスを各層毎に1枚だけにし、上下でつなぐ必要があった。
そこで、カーテンウォール、層間区画、駆体の各要素に分解し、機能別に再構成して、カーテンウォールの原型が提案された。
各要素の再構築
本建物のように外部側にリブがあり、各層が無限に連続してつながる様に表現する為に、従来のリブガラス工法を必要要素に分解し再構築した。
変化するプロトタイプ
リブユニットは、その本質をいっさい変えず、2層吹き抜け部分、フライングアトリウム、住友会館ロビーなど建物各部で様々に変わる用途に合わせて次々に変容しつつ適応している。
見えない部分に凝縮された技術
ガラスが板ガラスらしくシンプルに構成されて見えるために直線のみで構成されたシンプルなエッジとした。
カーテンウォール フライングアトリウム部(左)と一般部(右)
photo by Tsukasa Aoki
カーテンウォール金具ディテール
photo by Tsukasa Aoki
05魅せるカーテンウォール
設計風圧力
外リブ構法ではリブ面外(弱軸)方向に働く風圧力があるので、風洞実験実績と最新の風理論によって算定された上に風洞実験も行い安全性を確認した。
フェイスガラス
開放感を最大限に発揮させ、日射遮蔽性能が高いが反射の少ない、熱線吸収板ガラスのグリーン色が採用された。ガラスは倍強度ガラスや強化合わせガラスとして、軽量化した上に熱割れ可能性を最小にした。
リブガラス
合わせガラスを用いたリブガラスでは、2枚のガラスに等しく力を伝達するため工夫した。また、層間変位時にはS字に変形するリブへの応力集中を小さくしつつ必要な強度を保つため、支持部材の断面形状を必要部位で変化させた。
リブシールとシーリング材
本建築では、リブ部シールは構造上働くSSGシール、面ガラス突き合わせ部は防水上働くウエザーシールと、機能を明確に分離した。またリブ部のシールは2本に分けて2面接着とし応力集中を最小とした。
硬さと切れにくさが要求される外装シール、ことにリブガラスのシーリング材には、この建物専用にアルコールタイプのシリコーン系シーリング材を開発し使用した。
基準階カーテンウォール詳細図(PDF 200KB/1ページ)
ロールブラインド
各面とも違った種類の特殊な編み方の生地が使用され、各面での照度を調整するとともに、日射を遮蔽しつつも外部が透視できるようになっている。
エアバリアファン
窓廻りに設置された騒音の少ない軸流ファンは、ロールブラインドと併用し窓部に簡易エアフロー機能をもたらす。ファン支持部材は窓部の手すり機能ももつ。
基準階サッシ
外部リブガラスであるためサッシを貫通する支持金物は、自由な形と強度がとれる鋳物製とし、ダブルシールで漏水対策が施された。 またガラスの汚れ対策のため外部サッシ周りをガスケットとした。さらに、水切り、落雪側雷・結露対策、自然換気等様々な機能をサッシと支持金物に凝縮させている。
一般階から東方面を望む
photo by Tsukasa Aoki
一般階から芝浦方面を望む(夜景)
photo by Tsukasa Aoki
一般カーテンウォール部
photo by Tsukasa Aoki
一般階カーテンウォール内観(エアバリアファン)
photo by Tsukasa Aoki
06フライングアトリウム 空中庭園をつくる
7Fレベルから始まる基準階と高層の中層部とを結ぶエレベーターを囲む巨大吹き抜け空間は、3フロアー分12m間隔を支える通称メガネ梁と、その間のテンションロッドのサブストラクチャーで構成されている。
このカーテンウォールのフェイスガラス面外方向への地震対応のため、ロッド先端部に吊りロッドを設け、ガラス自重を支えるとともに、束材にピンを設け地震時にここから回転させる事で上下移動を最小限とした。
また、このアトリウムは西日対策として熱感知式の特大ロールブラインドを採用し、西日による日射の進入を防いでいる。
フライングアトリウム詳細図(PDF 124KB/1ページ)
フライングアトリウム外装(夜景・北西面)
photo by Tsukasa Aoki
07低層部 光の饗宴を支えるガラス
エスカレーター
エスカレータは、その重なる支持門柱のリズムが移動する人々の目を奪う。接合部はEPG工法とPFG工法として金物を最小化している。
ガラスは世界最大級の4mを越えるセラミックスプリント特注ストライプの強化合わせガラスで、アクセントをつけるとともに天板の汚れを目立たなくさせている。
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北面エスカレーターとフライングアトリウム外装
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エスカレーターガラス詳細
エレベーター
大部分がガラスで囲まれたシャフトを昇降するエレベーターはいずれもシースルーで明るく縦に伸びる導線が一目でわかる。
地下鉄駅からのメインアプローチであるステーションアトリウムは、東西面・南北面共に大判ガラスで構成されている。そのうち、南北面には当社開発の形状記憶合金を使用したバネにより冷房時と暖房時でルーバー角度が自動的に変わる熱感知式ガラスルーバーが設けられている。
会館エレベーターは日本初のかごそのものが外部に完全露出したエレベータである。なお、高所恐怖症の人のために、スイッチOFFで瞬時に不透明になる瞬間調光ガラス・ウムを用いた複層ガラスも窓に使用された。
賀井 伸一郎(日本板硝子/建築硝子部)
アーバンコリドールから、ステーションアトリウムを望む
photo by Tsukasa Aoki
08建築データ
Architecture Data
| 名称 | 泉ガーデン |
|---|---|
| 所在地 | 東京都港区六本木一丁目 |
| 面積 |
泉ガーデンタワー:敷地面積:23,868.51㎡ 建築面積:8,995.11㎡ 延床面積:157,364.99㎡ 泉ガーデンレジデンス:建築面積:1,675.20㎡ 延床面積:44,097.26㎡ 泉屋博古館分館:建築面積:863.46㎡ 延床面積:1,363.11㎡ |
| 構造 | 泉ガーデンタワー:S造・SRC造・一部RC造 |
| 階数 | 泉ガーデンタワー:地下2階・地上45階 |
| 寸法 | 最高高:128.1m、軒高:119.9m、主なスパン:22.95m×12.8m |
| 階高 | オフィス階:4.4m、4.6m、4.8m、ホテル階:3.2m |
| 寸法 | 最高高:HGL+210,000mm、階高:4,000mm(基準階) |
| 設計 | 日建設計 |
| 監理 | 日建設計 |
| 施工 | 建築:清水建設/鴻池組・浅沼組・鹿島建設・竹中工務店・住友建設特定建設工事共同企業体 |
Glass Data
タワー
| リブガラス | ||
|---|---|---|
| 合わせガラス | 12~15ミリフロート透明+12~15ミリフロート透明 | 6,050㎡ |
| 強化合わせガラス | 15ミリ強化透明+15ミリ強化透明 | 2,850㎡ |
| フェイスガラス | ||
| 倍強度ガラス | 10~12ミリ熱線吸収グリーンペーン | 29,000㎡ |
| 強化ガラス | 10~12ミリ熱線吸収グリーンペーン | 3,900㎡ |
| 強化合わせガラス | 6~8ミリ熱線吸収グリーンペーン+10~12ミリ強化透明 | 2,500㎡ |
| セラミックスプリント 強化合わせガラス |
12ミリ熱線吸収グリーンペーン+8ミリ強化透明 | 220㎡ |
| 倍強度強化 複層ガラス |
12ミリ倍強度熱線吸収グリーンペーン +12ミリ中空層+8ミリ強化透明 |
540㎡ |
フライングアトリウム
| リブガラス | ||
|---|---|---|
| 強化合わせガラス | 15ミリ強化透明+15ミリ強化透明 | 480㎡ |
| フェイスガラス | ||
| 強化ガラス | 12ミリ強化熱線吸収グリーンペーン飛散防止フィルム貼 | 2,320㎡ |
| 強化合わせガラス | 12ミリ熱線吸収グリーンペーン+8ミリ強化透明 | 250㎡ |
低層棟
| セラミックスプリント 強化合わせガラス |
12ミリ強化透明+8ミリセラミックスプリント強化 | 850㎡ |
| フロート板ガラス | 8~25ミリフロート透明 | 3,500㎡ |
| 強化ガラス | 10~19ミリ強化透明 | 2,500㎡ |
| 強化合わせガラス | 12ミリフロート透明+8ミリ強化透明 | 1,200㎡ |
| 熱線吸収板ガラス | 10ミリ熱線吸収グリーンペーン | 500㎡ |
| 耐熱強化ガラス | 8ミリパイロクリア熱線吸収グリーンペーン | 200㎡ |
ガラス構法・技術担当
| プロジェクト担当 | 日本板硝子株式会社 建築硝子部 賀井伸一郎 |
| タワー設計 | 日本板硝子株式会社 建築硝子部 賀井伸一郎 |
| フライングアトリウム設計 | 日本板硝子ディー・アンド・ジー・システム株式会社 大野剛 日本板硝子株式会社 建築硝子部 鵜沢康久 |
| 低層棟設計 | 日本板硝子ディー・アンド・ジー・システム株式会社 大野剛・堅正元一 日本板硝子株式会社 建築硝子部 榎本貴伸 |
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