第6回 採光と景観

前回書きましたように、住まいの断熱性は私たちの健康な暮らしを続ける上でとても重要です。暑い節電の夏を迎えていますが、省エネルギーにも住まいの断熱は大きな影響をもっています。いきなり余談ですが、兼好法師が、すまいは夏をもって旨とすべし、と言っていた頃から、前世紀初頭まで、一年の中で夏に最も多くの方が亡くなっていました。衛生状態が悪く、新鮮な食物の摂取が困難な社会に共通する傾向です。現代社会では、冬に最も多くの方が亡くなります。そういう意味でも、今では、冬をもって旨とすべしなのではないか、と思います。

住まいの断熱性を考える際、窓は非常に重要な存在となります。一般的に窓は壁や床と比べ、断熱性能が大きく劣るのです。標準的な一戸建てでは、家全体から外に逃げる熱の半分が窓を通じて出て行っています。夏の暑さの7割が窓を通じて入ってきているのです。省エネ性や家の中の快適感を重視すると、「窓は不要」といった、かなり極端な考えもあります。実際に、高断熱を狙った住宅建物は、窓面積が少し小さい傾向にあります。このことが、いかにも冬型の住まいの印象を与えるように思います。

しかしながら、窓には、風や光を通すという、とても大切な役割があります。外の音も多少は入ってくる方が安心です。いくら省エネが大事でも、窓が無いと困ります。どのような窓を配置するのか、が非常に重要であると筆者は考えています。

窓を通じた光は、夜の電気照明に代わる、昼間の明るさと、外に拡がる景観の2つに分かれます。これらをきちんと分けて考えなければなりません。すぐ目の前にお隣の家が建つ状況では、景観は期待できません。駐車場はいずれ、ビルや住宅に代わる可能性があります。利便性を貴ぶ都市においては、景観は本来、望めないのです。昼間の明かりを採り入れることが目的であれば、擦りガラスの方が室内は明るくなります。ガラス面全体が輝くからです。紙障子でも同様です。そういうものを主として考え、覗き窓のような外を素通しできる部分を一部に設けると、日常生活のメリハリにもつながります。

通常の長方形の腰窓より、極端に横長の窓を天井近くに設置する方が、部屋の中は明るくなります。天井を明るくすることで、部屋全体が明るくなるのです。ただひたすら大きな窓をつけても、直接入ってくる太陽光は集中するため、明暗の差が大きく、室内全体は決して明るくなりません。おまけに太陽光は時間によって移動するので、太陽光をあてにして作業をすると落ち着かないこと、この上ありません。

肝心なことは、住まいの状況に応じた、一つ一つの窓の役割をよく考え、慣習的な窓のイメージを覆すことだと思います。極端な話ですが、昨今は液晶画面を利用すれば、本物以上の景観を持ち込むことができます。

通勤途中、カーテンを引きっぱなしの新築住宅の窓を見ていると、何のためにその窓を付けたのか、不思議に思えます。健康性にも影響の大きい窓、まだまだ考える余地はたくさんあるようです。